エミシの国の女神
早池峰─遠野郷の母神=瀬織津姫の物語


菊池展明





初版:2000年10月
造本:四六判上製本
本文:330ページ
本体:2500円
CODE:ISBN978-4-89426-415-1 C0095

内容のご紹介
『遠野物語』(柳田国男・佐々木喜善著)第二話に「大昔に女神あり」と出てくる、この「女神」の名は瀬織津姫(せおりつひめ)といいます。東北の霊峰=早池峰(はやちね)山は、宮沢賢治が愛した山でもありますが、瀬織津姫は、早池峰大神とも呼ばれ、千年以上にわたって早池峰郷の守護神として大切にまつられています。
 この女神の名を、聞いたことがあるという普通の人はそう多くはないでしょう。これは、神々の名の展示室のような『古事記』『日本書紀』に記されることがなかったからですが、調べていきますと、名を変えられてではありますが、ちゃんと登場しています。瀬織津姫という名を神々の歴史の表舞台に出してはならないとする大きな力が、記紀の編集思想によって働いたことが、この女神の名が歴史から隠された理由でした。このことを明らかにする話が本書の前半部分です。
 では、そのように隠された女神=瀬織津姫が、どのように早池峰─遠野郷にまつられるようになったのでしょうか。本書の後半は、これまでの民俗学で「謎」とされてきた東北の小さな神=オシラサマの背後に隠された神が瀬織津姫であることが明かされます。遠野は、このオシラサマ・河童・ザシキワラシなどの里としてよく知られる土地ですが、これらの小さな神々のルーツの神が、この瀬織津姫であることが明かされます。
 従来の歴史神話学および民俗学がよくふれえなかった領域は、天皇制の発生の現場とその継続の過程でした。瀬織津姫がこの天皇制の発生と継続の過程で、いかに消されようとしてきたかというのが、本書の底を一貫して流れる、日本史全体を再考しようというテーマです。
 日本の庶民がこよなく愛してきた、おそらく最大最高の水の美神が瀬織津姫といってよいでしょう。あなたの暮らす身近な場所のいたるところに、瀬織津姫はまつられています。日本の歴史は、大事な部分が明かされていません。瀬織津姫がわたしたちの国の歴史の根幹あるいは琴線にふれる、すばらしい女神だということが、本書から伝わってくれることを望みます。

(風琳堂主人)


もくじ
T 大昔に女神あり
 1 大昔に女神あり──遠野物語の里から
   遠野物語と瀬織津姫という女神
   壬申の乱と広瀬・大忌神
 2 早池峰の滝の女神──お不動さんに秘められた水の神
   滝神のルーツは熊野・那智か
   瀬織津姫にまつわる深まる謎

U 女神は明かす
 1 雷神になった女神──アマテラス神の誕生
   伊勢の奥の院について
   天武天皇と天変地異
   広瀬・大忌神を再考する
   伊勢神宮式年遷宮への仮説
   伊雑宮の真の神々と「荒魂」の神
 2 沈黙する女神──アマテラス神の不条理
   アマテラス神のモデル説を再考する
   持統女帝伊勢行幸の謎

V 受難の女神
 1 エミシの国の女神──持統三河行幸とアラハバキの神たち
   神話時間への旅
   持統三河行幸と三河の神々
 2 天白神という女神──三河から東北へ
   天白神という星神
   天白神という養蚕の神

W 舞い降りた女神
 1 オシラ神に隠された女神──天白神は明かす
   天白神からオシラサマへ
   オシラサマと遠野の神々
 2 早池峰の女神へ──ある小さな、しかし偉大な神の物語
   早池峰の山と神をめぐる確執について
   早池峰神社県社昇格申請事件
   早池峰神社の元宮について
   早池峰山上の神々

*付録T──瀬織津姫をまつる全国の主要神社(分布図)
*付録U──本殿主祭神として瀬織津姫をまつる神社(一覧表)
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